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福祉車両特集 Vol.1

福祉車両特集

三浦清克さん(トヨタ自動車株式会社・商品開発本部・ トヨタ第2開発センター・製品企画・チーフエンジニア)、青木達也さん(トヨタ自動車株式会社・商品開発 本部・トヨタ第2開発センター・製品企画・主任)、土谷秀一さん(関東自動車工業株式会社・開発本部・技術統括部・ チーフ・スタッフ)

専用のハイルーフを採用した車いす仕様車。
中央が深く絞り込まれているのがわかる。

専用のハイルーフを採用した車いす仕様車。
中央が深く絞り込まれているのがわかる。

普通のクルマでルーフとバックドアを2種類 持つというのは、なかなか出来ないんです

まずは、ベース車両となる標準車のお話から聞かせてください。先々代にあたるファンカーゴ(1999年)、そして初代のラクティス(2005年)と比較すると、同じハイト系ワゴンではあっても、車高が50mm以上低くなっています。
三浦
「一番の狙いは、スタイルと燃費の両立でした。と言っても、ただ低くするだけでは、従来のラクティスが持っていた長所が失われてしまう。それで、室内はヒップポイントの高さやパッケージングを見直して、低くなったとあんまり感じないような工夫をさせて頂いて、ラゲッジについても、アジャスタブルデッキボードで以前より大きな荷物が入るような工夫をしている。お客様にとっては、"燃費もスタイルも良くなった。それに室内も広いね"と言って頂けるクルマに仕上げられたんじゃないかと思っています」
青木
「低くするのは、実はラクティスの長年の課題だったんですね。空気抵抗から来る燃費の問題は大きかったですし、背が高すぎて特にリヤビューがカッコ悪いという声もあったんです。さらに新型は欧州に輸出しますが、向こうのニーズを考えても、よりスタイリッシュで燃費の良いものをという部分があったんです」

インライン生産を実現させた先代の車いす仕様車は、高岡工場の誇りとまで言われた。

標準車は、低いボディにするのがマストだったんですね。
三浦
「そうですね。ただ、車いす仕様車もこれまで通り、続けていく方向でした。初代ラクティスの車いす仕様車は、中川(中川茂さん。現・第3開発センター主査。月刊自家用車9月号にインタビュー記事)という人間がやっていたんですが、彼の情熱と部署全体の頑張りもあって、お客様から大変高い評価を頂いていた。福祉車両としては、台数的にも良好でした。しかもデビュー当初、生産を担当していた高岡工場(愛知県にあるトヨタのライン工場。国内最大級)では、こういうクルマを作っていることを"高岡の誇りにしよう"と言ってくれた背景もあって、社内での評価も高かった。こうしたことを追い風に、さらに多くのお客様に喜んで頂ける専用のハイルーフを作って、標準車との2本立てで行こうと。
それから、僕自身の座高が高いのもありましてね(笑)。今回、車いす仕様車のチーフエンジニアも兼任で担当させてもらうことになって、担当するクルマ(の天井)で自分の頭がつかえるのは面白くないなというのもあって。まあそれは冗談ですが、男性の場合は身長が185cm、女性の場合は170cmまで入れれば、日本人の95%が入ると。であれば、まず乗ってもらえるようにしようと。それでやろうと決めました」
土谷
「先代のラクティス開発時は、インライン(ベース車の生産ライン上で製作すること。福祉車両は、完成車を別の工場でいったん解体して、システムを新たに組み込むのが一般的だったが、トヨタはラクティスの車いす仕様車でこれを実施し、低コスト化を実現--編集部注)で作れるかどうかというところからスタートしたものですから。170cmまでしか乗れないという制約もわかっており、ある程度は我慢しました。インライン化が実現出来て、認知されたというところが、 まず成果だと思ってます。
だから今回は、身長の大きな人にも乗ってもらおうとか、もう少し差別化しようとか、一方でベース車はもう少し燃費のよいスタイルにしたいといった部分を加味していくと、分かれざるを得なかった。それが正しい選択だと今は思っていますけれど」

従来車と比較して、開口高で45mmも高いボディ。185cmの車いすの方でも利用が可能に。

標準車との高さの差はどれくらいですか?
三浦
「ルーフは標準車よりも120mm高い。おかげで、従来モデルよりも開口部で45mm、室内で40mm高くなっています」
ハイルーフ化にあたって、障壁はとくにはなかった?
青木
「障壁はありませんでしたが、僕等のなかでも結構気になっていたことがあって。というのも、このラクティスは車いす仕様車イコールハイルーフなんです。外から見ると、あ、あのクルマ、車いす仕様車だとわかってしまう。(ハイルーフにすることが)決まってからも、果たしてこれでいいのかなと。そこで施設や老人ホームに、実際の声を聞きに伺いました。
その時、ある施設の方から伺った、"大切なのは外観ではなくて、その人が乗れるかどうかですよ"とのコメントは、開発を進めていくうえで強みになりましたね。また、"車いす仕様車でおばあちゃんを病院へ連れて行くんだけど、玄関前で同じようなクルマが縦列駐車していて、スロープを出すにも出せない時があると。だから『このクルマは車いす仕様車ですよー』といえるようなモノがあればいい"という意見もいただきました。これはあるひとりの方の意見なので、全部という訳ではないんですけども、そういう意味では決してこの方向性は間違いではないなと。ある意味、自信になりましたね」
生産をご担当される立場で、難しかった部分はありますか?
土谷
「そうですね。ハイルーフについては、ゴツくなくてカッコ良く、しかもベース車と可能な限り共用するということでデザインの段階から試行錯誤を繰り返して、あのカタチが出来ています。当然パネル自体も、深絞りになる。天井側も内側から見ると、近来にない深さの天井となっていて、この部分では苦心しましたね。もちろん車いすの方々にとっては関係のないことで、カタチが出来ていれば良い話なんですが、ここできちんとカタチを出さないと、あの空間がキープできない。深くできないからと、部品を別々にして繋げると部品の数が増えて、値段が上がってしまう。ですから、いかに安く、軽く作るかという基本的なところでは非常に苦労しましたね。
あとはハイルーフ用のバックドアですね。あれは見切りの位置が、屋根が高いぶん、標準車より上がっている。一方でバンパー位置は下がってますからね。ベース車と比べて、上下方向にデカいんです。当然そのぶん重いんですが、お客様が使う操作性としては、ベース車と遜色ない機能を持たせないといけないので、重さのバランスとか、ダンパーのチューニングとか、それに外周のシール性の問題もある。そういったところは設計の基本に立ち返って、バランスを取って、使い勝手の良いドアにしないといけない。正直、バックドアは最後まで苦労しましたね」
どれくらい重くなるんですか?
土谷
「ざくっと2kgぐらい。全体ではベース車に対して、50kg増です」
燃費も悪くなる?
三浦
「標準車が20km/リットルに対して19.6km/リットル。でも、燃費に影響があるのは高さですね。ルーフが高くなることで、空気の流れが、標準車と外の流れが変わってしまう。それで、スロープ車にはバンパーのところにスポイラーを付けてます。この効果が標準車よりうんと大きい。Cd値、空気抵抗係数を下げるのに大変役に立っています」
ベース車作りました、屋根あげました、という簡単な話ではないんですね。
三浦
「一般の方にはわかりづらいかもしれませんが、普通のクルマでルーフとバックドアを2種類持つというのは、実はなかなか出来ない。今の時代、福祉車両のために専用ルーフを持っているモデルって、1つもないんです。それだけに開発部隊、生産部隊とも大変苦労をしたし、一方でしっかりと理解もしてもらえた。今回の件ではGOを出してくれたトップの人間も含めて、トヨタはこういう部分も非常に大切にしているんだなと改めて感じましたね」